1987.8 ETS-V打上げ
移動体に対する通信手段としては無線通信による 以外は困難であり、現在、船舶、航空機、自動車、 列車等に対して広く無線による通信が行われてい る。しかし、インマルサットのサービスの対象とな る比較的大型の船舶に対するものや軍用を除き、衛 星通信は利用されておらず、大多数の移動体に対す る通信の品質や稼働率は良好とは言い難い。また通 信可能領域に制限のあるものもある。このようなことから電波研究所では移動体衛星通信の研究を行っ てきたが、この研究成果を踏まえ、昭和62年8月27 日に、H-Ⅰロケットによって打ち上げられた(写 真1)技術試験衛星Ⅴ型(ETS-Ⅴ)を用いた実 験を行うことを予定している。このための実験シス テムは、EMSS(Experimental Mobile Satellite System)と称されており、したがって本実験は ETS-Ⅴ/EMSS実験と呼ばれている。

写真1 EST-Vを搭載して打ち上げられた
H-Iロケット 写真提供 宇宙開発事業団
新しい移動体衛星通信システムに関する研究開発 が日本のみならず世界的にも急速に進展している。 この例としてはインマルサットの航空機衛星通信サ ービスを含む新サービスの開発、米国、カナダ、オ ーストラリアの主に国内用の移動体衛星通信システ ムの開発、ARINC社の航空機用衛星通信システ ムの構想などがあげられる。
EMSS実験では、このような状況を踏まえ、図 1に示すように陸、海、空を含めた総合的な移動体 衛星通信システムの基盤技術の確立を目的としてい る。このためには、変復調技術、符号化技術、アン テナ等の高周波装置に関する技術開発、衛星回線に おける電波伝搬特性の解明、衛星の制御方法の最適 化などについて衛星通信実験をとおして検討すると ともに、システム全体としてこれら要素技術を検討 する必要がある。さらに、移動体通信システムの望 ましいあり方について、現行の地上通信システムと の比較や経済的な側面をも含めて考慮されることに なろう。

図1 移動体衛星通信実験システム(EMSS)の概念図
【資料】宇宙通信部 移動体通信研究室長 小坂克彦、「ETS-Ⅴを用いた移動体衛星通信実験計面」、RRLニュース、1987.9 No.138
【資料】海洋通信研究室主任研究官 森河 悠、「衛星を利用した海上移動通信」、電波研究所ニュース、1979.11 No.44