組織改正で,新たに電波観測管理室となった我々 の職場は,どんなことをしているところなのか,和 名からはすぐにぴーんとこないのではないかと思わ れますが,英語ではIonospheric Observation Sectionと呼ばれるところ,というとこれは余り説 明しなくても中身がおわかり頂けそうに思われます。
電離層観測は,電波研究所発足以前から行われて いる業務であり,連綿として継続している老舗の稼 業とでもいうべき仕事です。
人工衛星などが情報伝達手段として発達してきて いる現在,短波通信の占める相対的な重要性が低下 し,従って電離層情報を必要とする社会的なニーズ も比較的少なくなってはきています。しかし短波通 信は,信頼件に問題はあるものの,手軽で経済的で あるなどの理由で今でも広く利用されています。
我が宇宙船地球号は,母なる太陽の惑星として永 遠の航行を続けている。電離層の観測は,その大切 な環境の一部を常に監視していることであり,太陽 地球間の物理を主題とする一大ロマンを書きあげる 壮挙の1端を担うことでもあるので,国立研究機関 に課せられた大事な仕事と密かに自負しています。
そんな訳で,武蔵野の面影を残す雑木林に囲まれ た閑静な建物で、昼夜の別なく毎日15分間隔で電離 層の観測を行ってきています。観測は自動的に行わ れ,結果は35㎜のフィルムに記録されます。
このフィルムから電離層を代表する特性値を読取 り,Ionspheric Data in Japan(電離層月報)に まとめあげることも稼業の一部ですが,読取り作業 が可成り大変なので,電子計算機で自動的に読取ら せるシステムを完成させるための努力を,通信技術 部信号処理研究室と一緒になってすすめています。 これが目出度く完成しますと,国分寺はもちろん, 稚内,秋田,山川,沖縄のデータも電話回線で送ら れてきて自動処理されることになります。
電波研究所は,東南アジアで観測された電離層デ ータを集積し,学術研究に供する電離層世界資料セ ンターC2を設置していますが,この運用も当室の “なりわい”になっています。
さらに電波観測管理室は,これまでの電波予報研 究室の業務を引継いでいますので,3か月先の“電 波予報”を発行するための資料作成も毎月行ってい ますが,来年度には1冊で短波回線の電波予報のわ かる“新版電波予報”に切替える計画が策定された ので,そのための準備も行っています。
老舗の“のれん”を守る面々は,合歓垣(ただの 巨人ファン),小泉(昔は名?キャッチャー),吹留 (植木・焼物相談承り所),栗城(ダサイ奥多摩ハィ カー),竹内(長持ち唄の真打),安藤(三段を窺う碁 キチ),永山(多趣味・特別釣キチ),野崎(南極の次 はスペースコロニー?),猪木(フランスワインなら 本場仕込み)の9人と作業契約会社の永井(習字・ 民謡がおはこ)です。

前列左から竹内、吹留、栗崎、小泉、合歓垣
後列左から安藤、永山、野崎、猪木、永井
【資料】栗城 功、「老舗の稼業」、CRL NEWS 1985.7 No.112