海洋通信研究室

1960 年代,海洋開発ブームが起こり,研究所でも海洋開発への寄与が検討された。

AMES計画からETS-V/EMSSへ

1980.10 航空・海上技術衛星(AMES)模擬実験実施

通信機器部海洋通信研究室では,昭和54年度に開発し た航空海上技術衛星模擬装置及び小型船舶地球局装置を 利用した,通信・伝搬実験を本年10月10日から10月30日 にかけて,福井県三方郡美浜町早瀬海岸において実施し た。実験は船舶局装置を地上に固定して,1.伝搬実験 (波浪観測用ブイで波高をモニタしながらフェージング 特性,ハイトパターン特性の測定),2.通信実験(各種変 復調方式での回線品質の評価)及び船舶(福井県水産試 験場所属,福井丸147トン)を利用した,(1)各種仰角で の伝搬特性の測定,(2)小型アンテナ安定台の追尾特性の 測定,等を行った。
【資料】電波研究所ニュース、1980.11 No.56

1984.11 ETS‐V/EMSS計画の模擬実験実施

通信機器部海洋通信研究室では,ETS‐V/EMSS計画 (技術試験衛星V型による移動体衛星通信実験計画)に資 するため,昭和55,56,57年度に引き続き,海上移動デ ィジタル通信実験を,11月28日から12月13日まで,福井 県三方郡美浜町早瀬海岸において実施した。今回の実験 は,低仰角(約4.5度)に於ける伝搬特性の測定,フェー ジング除去技術の検証,ディジタル変調(MSK,24kbps 及び32kbps)方式による通信実験(誤り率,誤りパター ンの測定等)及びXバンド波の海上伝搬特性の測定等を 行うため,早瀬海岸に船舶地球局,海を隔てた天王山( 高度約250m)に模擬衛星局(水平距離約3.8km),海上 に波高測定用ブイ局を設置して行い,移動体衛星通信技 術の確立に必要な多くの貴重なデータを取得する事が出 来た。なお,現地実験所に,NHK社会部より,ETS- V/EMSS計画の紹介のための取材撮影があった。
【資料】電波研究所ニュース、1985.1 No.106

1987.8 ETS-V打上げ

移動体に対する通信手段としては無線通信による 以外は困難であり、現在、船舶、航空機、自動車、 列車等に対して広く無線による通信が行われてい る。しかし、インマルサットのサービスの対象とな る比較的大型の船舶に対するものや軍用を除き、衛 星通信は利用されておらず、大多数の移動体に対す る通信の品質や稼働率は良好とは言い難い。また通 信可能領域に制限のあるものもある。このようなことから電波研究所では移動体衛星通信の研究を行っ てきたが、この研究成果を踏まえ、昭和62年8月27 日に、H-Ⅰロケットによって打ち上げられた(写 真1)技術試験衛星Ⅴ型(ETS-Ⅴ)を用いた実 験を行うことを予定している。このための実験シス テムは、EMSS(Experimental Mobile Satellite System)と称されており、したがって本実験は ETS-Ⅴ/EMSS実験と呼ばれている。


写真1 EST-Vを搭載して打ち上げられた
H-Iロケット
  写真提供 宇宙開発事業団

 新しい移動体衛星通信システムに関する研究開発 が日本のみならず世界的にも急速に進展している。 この例としてはインマルサットの航空機衛星通信サ ービスを含む新サービスの開発、米国、カナダ、オ ーストラリアの主に国内用の移動体衛星通信システ ムの開発、ARINC社の航空機用衛星通信システ ムの構想などがあげられる。
 EMSS実験では、このような状況を踏まえ、図 1に示すように陸、海、空を含めた総合的な移動体 衛星通信システムの基盤技術の確立を目的としてい る。このためには、変復調技術、符号化技術、アン テナ等の高周波装置に関する技術開発、衛星回線に おける電波伝搬特性の解明、衛星の制御方法の最適 化などについて衛星通信実験をとおして検討すると ともに、システム全体としてこれら要素技術を検討 する必要がある。さらに、移動体通信システムの望 ましいあり方について、現行の地上通信システムと の比較や経済的な側面をも含めて考慮されることに なろう。


図1 移動体衛星通信実験システム(EMSS)の概念図

資料】宇宙通信部 移動体通信研究室長 小坂克彦、「ETS-Ⅴを用いた移動体衛星通信実験計面」、RRLニュース、1987.9 No.138
【資料】海洋通信研究室主任研究官 森河 悠、「衛星を利用した海上移動通信」、電波研究所ニュース、1979.11 No.44