1987.8 ETS-V打上げ、移動体衛星通信実験へ

新しい移動体衛星通信システムに関する研究開発 が日本のみならず世界的にも急速に進展している。 この例としてはインマルサットの航空機衛星通信サ ービスを含む新サービスの開発、米国、カナダ、オ ーストラリアの主に国内用の移動体衛星通信システ ムの開発、ARINC社の航空機用衛星通信システ ムの構想などがあげられる。
 EMSS実験では、このような状況を踏まえ、図 1に示すように陸、海、空を含めた総合的な移動体 衛星通信システムの基盤技術の確立を目的としてい る。このためには、変復調技術、符号化技術、アン テナ等の高周波装置に関する技術開発、衛星回線に おける電波伝搬特性の解明、衛星の制御方法の最適 化などについて衛星通信実験をとおして検討すると ともに、システム全体としてこれら要素技術を検討 する必要がある。さらに、移動体通信システムの望 ましいあり方について、現行の地上通信システムと の比較や経済的な側面をも含めて考慮されることに なろう。


図1 移動体衛星通信実験システム(EMSS)の概念図

資料】宇宙通信部 移動体通信研究室長 小坂克彦、「ETS-Ⅴを用いた移動体衛星通信実験計面」、RRLニュース、1987.9 No.138

「おしょろ丸」ヘ衛星ファクシミリ往復書簡

当所では、人工衛星を用いて船舶や航空機などの移動 体に高品質、高信頼度の通信を提供する新しい移動体衛 星通信の研究を世界に先駆けて行っている(ETS-Ⅴ/EM SS実験)。この研究の一環として、北海道大学水産学部 の「おしょろ丸」に当所で開発した衛星通信装置を搭載 し、当所の研究員2名が種々の通信実験を行っている。 「おしょろ丸」は、昭和63年10月20日、遥か太平洋上の トラック諸島及びポナペ島を寄港地とする約70日間の演 習航海へむけ函館港をあとにした。

 本通信実験も第三回目となり、乗組員の方々からこの 衛星通信を用いて家族と連絡したいとの要望が強く出さ れ、また当所としても衛星通信の有効性を理解頂き、乗 組員の協力に報いるため、実験の一環としてファクシミ リ伝送サービスを試みることとした。
 「おしょろ丸」から家族あるいは友人宛に伝送された ファクシミリは約60通でほぼ乗組員全員からである。 ファクシミリはETS-Ⅴ衛星経由で当研究所鹿島支所で 受信され、直ちに指定の宛先へ郵送された。遥か洋上で の生活を案じる家族や友人には予期せぬ連絡に驚きと 同時に急速な技術開発の進歩を肌で感じて頂けたよう だ。ここに、ご本人のご了承のもとファクシミリの往復 書簡(一部)を紹介させて頂く。

【資料】CRLニュース、1981.1 No.154

福井県美浜で、海を挟んで仰角5度の山に模擬衛星を、海岸にアンテナ、模擬船舶局を設置して行った実験。

水産試験所の「福井丸」で小型船舶模擬衛星通信の実験。

北大の「おしょろ丸」でETS-V衛星による船舶衛星通信実験。左は、遠洋に航行中のおしょろ丸乗員からご家族に衛星送信した往復書簡。当時では、夢のような通信で、大変喜ばれた。

JAL国際貨物機B-747に開発した衛星通信用アンテナを搭載しているJAL職員。

航空機、船舶に続き、陸上移動(車両)衛星通信実験も実施。

オーストラリアのAUSATの要請でシドニーでも通信実験。これはポータブル型メッセージ衛星通信機。